H19年9月号の電子情報通信学会誌に田中耕一さんと伊達達夫会長の対談がありました。以下抜粋。
今まで余りお話できなかったことなのですが、これ(図1)が昭和58年に東北大学工学部でお世話になった
益子拓徳助手と安達三郎教授に1983年の電子通信学会総合全国大会に出して頂いた原稿をスキャンした
ものです。ビルの壁に電波が当たってテレビ画像が二重、三重に見えるゴーストを消す一つの方法として、
ビルに当たって跳ね返ってくる電波を減衰させる一つの方法を提案していいます。具体的には、壁の中に
小さいアンテナをアレー状にたくさん並べる方法です。電波を吸収するということですね。
はい。壁の表面で跳ね返る電波とアンテナで跳ね返る電波の位相を180度変化させることで、
壁で反射する電波を相殺させ打ち消してしまう手法です。これを1ページに簡単にまとめたものが
この原稿です。これに対して、ノーベル賞受賞対象となった方法は
「ソフトレーザ脱離イオン化法」と名付けられています(図2)。
レーザ光を媒質に照射して、媒質に含まれているタン白質などを壊さずにイオン化し、
高分子量試料の分析を行うものです。このときに、レーザ光を吸収させるために混ぜたのが金属超微粉末です。
この2つの研究には幾つか類似点があります。まずは電磁波です。テレビ電波もレーザ光も電磁波です。
同じ電子波で波長が違うだけ。次に金属です。金属のアンテナと金属の粉末。アンテナはコンクリートに
埋め込んで使うのに対し、金属超微粉末はグリセリンと混ぜる。こじつけのような気もするのですが、
金属超微粉末とグリセリンが混ざったときになぜ捨てなかったという疑問に対する答えの1つに、
この類似性があったようにも思います。テレビ電波をコンクリート中の金属アンテナで吸収できるのであれば、
同じ電磁波であるレーザ光も金属超微粉末で吸収できるのではないかという
感覚があったのもかもしれません。このような感覚は、化学の専門家のそれとは
異なるのではないでしょうか。「捨てるのはもったいないから」と言った方が皆さんの受けは良いですし、
「もったいない」という言葉を広めたように思われていますが(笑)、本当のところは電気と化学の分野
に共通している自然の摂理みたいなものを気に止めたからではないかと感じています。